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国税を滞納すると、会社が取引先に対して持つ売掛金も滞納処分による差押えの対象になり得ます。売掛金が差し押さえられると、取引先は「第三債務者」となり、差押えの範囲では滞納会社へ代金を支払えません。
国税徴収法62条による債権差押えは、債権差押通知書が第三債務者へ送達された時に効力を生じます。通知を受けた取引先がその後に滞納会社へ支払っても、その支払いを国へ対抗できないため、会社側・取引先側とも通知を自己判断で処理せず、記載範囲を税務署へ確認する必要があります。
- 国税滞納で売掛金が差し押さえられる仕組み
- 国税徴収法62・63・67条の要点
- 既存・将来の売掛金へ効力が及ぶ条件
- 滞納会社と第三債務者それぞれの初動
- 納税・換価の猶予と差押解除を相談する際の注意
本記事は2026年7月30日時点の国税徴収法と国税庁通達に基づく一般的な説明です。個別の差押範囲、債権の存否、相殺、債権譲渡との優先関係、不服申立て、解除の可否は事実関係で変わります。通知を受けた場合は所轄税務署の徴収担当、税理士、弁護士へ速やかに相談してください。
国税滞納で売掛金は差し押さえられる
売掛金は、会社が商品・サービスを提供し、取引先から代金を受け取る権利です。現金・預金や不動産だけでなく、この金銭債権も国税滞納処分の対象になり得ます。
売掛金は国税徴収法62条の「債権」に含まれる
国税庁の国税徴収法62条関係通達では、同条の債権を、金銭または換価に適する財産の給付を目的とする債権と説明しています。売掛金は取引先から金銭を受け取る権利であるため、この範囲に含まれます。
売掛金の差押えでは、滞納会社が債権者、代金を支払う取引先が第三債務者、国が差押債権者という関係になります。
| 立場 | 売掛取引での該当者 |
|---|---|
| 滞納者・債権者 | 国税を滞納し、売掛金を持つ会社 |
| 第三債務者 | 売掛代金を支払う取引先 |
| 差押債権者 | 国 |
取引先へ債権差押通知書が送達される
徴収職員が売掛金を差し押さえる場合、第三債務者へ債権差押通知書が送達されます。滞納会社には差押調書の謄本が交付されます。
効力発生の基準は、滞納会社が書類を読んだ日ではなく、第三債務者へ債権差押通知書が送達された時です。社内への通知到着が後になったとしても、取引先側ではすでに支払制限が生じている可能性があります。
第三債務者は滞納会社へ支払えなくなる
国税庁通達では、第三債務者は差押えの範囲で滞納者への履行を禁止されます。通知後に滞納会社へ支払っても、その履行を差押債権者である国へ対抗できません。
取引先が「いつもどおりの口座へ振り込んでほしい」と滞納会社から依頼されても、自己判断で従わないことが重要です。通知書記載の債権、金額、履行期限、連絡先を確認します。
国は差し押さえた債権を取り立てられる
国税庁の67条関係通達では、徴収職員が差押えにより取立権を取得し、自己の名で裁判上・裁判外の取立行為を行えると説明されています。
第三債務者が履行期限までに任意に履行しない場合、徴収職員が履行を請求し、必要に応じて給付訴訟や支払督促等の手続きを取ることがあります。
売掛金差押えまでの基本的な流れ
個別案件では督促、財産調査、猶予の有無などにより進み方が異なります。ここでは一般的な位置関係を整理します。
納期限を過ぎ、督促後も未納が続く
国税が納期限までに納付されず、督促後も完納されない場合、国税徴収法に基づく滞納処分が進むことがあります。災害、事業上の損失、資金不足など納付できない事情がある場合は、差押えを待たず所轄税務署の徴収担当へ相談します。
税務署への連絡を避けたまま、会社独自の分割計画だけを作っても、正式な猶予が認められたことにはなりません。
納付相談中であることと、正式に猶予が認められていることは区別してください。
税務署が財産・取引関係を確認する
預金、不動産、売掛金など徴収対象となる財産が調査されることがあります。売掛金を特定する資料には、帳簿、請求書、契約書、取引先情報、入金履歴などが関係します。
売掛金の差押えは、取引先へ滞納の事実が伝わるきっかけにもなるため、事業上の影響が大きい手続きです。しかし、取引先に知られたくないことを理由に通知の効力を止めることはできません。
第三債務者へ債権差押通知書が送達される
通知書では、滞納者、第三債務者、差し押さえる債権、金額・範囲、履行に関する事項などを確認します。
既に発生した債権は、債権者、第三債務者、金額、給付内容、発生日などで特定されます。将来債権は、発生原因、種類、発生期間などによって特定されると国税庁通達で示されています。
取引先から国へ履行され、国税へ充てられる
差押債権の履行期限に応じ、徴収職員が取立てを行います。取り立てた金銭は、その限度で滞納国税の納税義務を消滅させる扱いになります。
滞納会社は、税務署の充当内容、残る本税・延滞税等、他の差押財産を確認し、納付計画を更新します。
将来発生する売掛金も差押対象になる場合がある
通知時点で未請求のすべての将来売上が無条件に差し押さえられるわけではありません。差押え時点の契約関係と通知書の特定内容が重要です。
既存の明確な契約関係がある将来債権
国税庁の62条関係通達では、将来生じる債権でも、差押え時に債権発生の基礎となる法律関係が契約等によって存在し、内容が明確と認められるものは差し押さえられると説明しています。例として、継続的取引契約に基づく将来の売掛代金債権が挙げられています。
したがって、差押え時点で継続契約があり、対象期間・債権種類等が通知で特定されている場合、通知後に発生する売掛金へ効力が及ぶ可能性があります。
まだ基礎関係のない将来売上とは区別する
単に「今後この会社が得る売上すべて」という抽象的な説明ではなく、第三債務者が対象債権を確知できる程度の特定が必要とされています。
新しい契約、別の商品、対象期間外の取引が通知へ含まれるかは、文言と事実関係を確認しなければ判断できません。取引先・滞納会社の双方で推測せず、税務署へ照会してください。
継続的な収入に対する66条との関係
国税徴収法66条には継続的な収入に対する差押えの効力に関する規定があります。一方、継続取引の売掛代金は、62条関係通達で将来債権の例としても示されています。
売掛金へどの条文・範囲が適用されるかを会社側だけで決めず、債権差押通知書の表示と税務署の説明を確認してください。
売掛金は全額差し押さえられるのか
滞納額より売掛金が大きい場合でも、「滞納額分だけが自動的に対象」とは限りません。
原則は債権全額の差押え
国税庁の63条関係通達では、債権額が徴収すべき国税額を超える場合でも、一定の場合を除き、債権全額を差し押さえると説明されています。
たとえば滞納国税が100万円、売掛金が300万円であっても、通知を見る前に「100万円だけ止めればよい」と判断するのは危険です。
一部差押えの場合は通知書に明記される
第三債務者の資力が十分で履行が確実、弁済期が明確、優先質権等や抗弁事由がないなどの要件を満たし、全額を差し押さえる必要がないと認められるときは、一部差押えとなる場合があります。
一部差押えの場合、債権差押通知書の「差押債権」欄に一部を差し押さえる旨が明記されます。第三債務者は通知書の対象額・対象債権をそのまま確認します。
差押範囲と最終的な充当額を混同しない
差し押さえた債権の範囲、実際に取り立てる金額、滞納国税へ充当された金額、余剰の扱いは別の確認事項です。会社は税務署から交付される書類・充当状況を確認し、帳簿へ反映します。
小谷良太『税額は100万円だから100万円だけ』と自己判断しないでください。第三債務者は通知書に記載された債権の範囲を基準に動く必要があります。
売掛金を差し押さえられた会社の初動
資金繰りへの影響と法的な対応を同時に進めます。取引先へ通常口座への支払いを求めるなど、通知と矛盾する行動は避けてください。
- 差押調書・通知対象債権・滞納額を確認
- 売掛金元帳と請求書を照合
- 対象入金を資金繰り表から外して再計算
- 所轄税務署の徴収担当へ連絡
- 税理士・弁護士へ書類一式を共有
差押調書と対象債権を確認する
差押年月日、第三債務者、対象債権、金額・期間、滞納国税の内容を確認します。複数の取引先へ通知されている可能性もあるため、売掛金元帳と照合します。
書類の到着順だけで効力を判断せず、第三債務者への送達時点を税務署へ確認します。
入金予定を資金繰り表から外して再計算する
差し押さえられた売掛金を通常の入金予定として残すと、給与、仕入、家賃、社会保険料などの支払計画を誤ります。
対象額・対象期間を保守的に除外し、日次・週次で現預金残高を再計算します。支払先への相談が必要な場合は、支払期日前に事実と代替案を伝えます。
取引先へ誤った支払指示をしない
第三債務者は通知後、差押範囲で滞納会社への履行が禁止されます。「別口座へ振り込んでほしい」「現金で支払ってほしい」など、差押えを免れる目的の指示を出してはいけません。
取引継続に必要な連絡は、税務署・専門家へ確認したうえで、通知の遵守と事実確認に限定します。
所轄税務署の徴収担当へ相談する
滞納税額、すでに納付した金額、差押対象、今後の納付原資、事業継続への影響を整理して連絡します。
持参・共有する資料の例は次のとおりです。
- 差押調書・税務署からの通知
- 納付書、督促状、既納付額の記録
- 預金残高、資金繰り表
- 売掛金一覧、支払予定一覧
- 月次試算表、直近の決算書
- 現実的な分割納付計画
日次残高の作り方は、資金繰り表の作成・管理方法も参考にしてください。
猶予・差押解除の要件を確認する
国税庁の納税に関する総合案内では、換価の猶予と納税の猶予が案内されています。要件を満たす場合、財産の換価や差押えが猶予されることがあります。
ただし、相談・申請をすれば必ず認められるわけではなく、猶予と差押解除も同じではありません。すでに差押えを受け、納税の猶予が認められた人向けには、納税の猶予に伴う差押解除申請手続があります。適用可否と必要書類を徴収担当へ確認してください。
税理士・弁護士へ相談する
税額・申告内容・納付計画は税理士、差押範囲、第三債務者との関係、債権譲渡、相殺、不服申立てなどは弁護士への相談を検討します。



差押え後は、税務署への説明と資金繰りの組み直しを同日に始める必要があります。対象入金を外した日次残高を先に出すと、支払相談の優先順位が見えます。
通知を受けた第三債務者の対応
取引先として債権差押通知書を受け取った場合、滞納会社との関係だけで判断せず、通知の法的効力を前提に確認します。
通知書の真正・対象・送達日を確認する
差出人、税務署名、担当部署、滞納者、差押債権、金額・期間、履行期限を確認します。不審点があれば、通知書へ記載された番号だけに依存せず、国税庁サイトで税務署の代表連絡先を確認して照会します。
社内では経理・法務・支払担当へ即日共有し、通常振込が自動実行されないよう対象支払を止めます。
対象となる売掛債務が存在するか照合する
契約書、発注書、納品・検収、請求書、買掛金元帳、支払予定を確認します。
- 債権差押通知書と送達日
- 契約書、発注書、納品・検収記録
- 請求書、買掛金元帳、支払履歴
- 相殺・債権譲渡・他の差押えに関する書類
- そもそも債務が存在しない
- すでに通知前に支払い済み
- 金額や契約が異なる
- 返品・解除・未検収などの争いがある
- 相殺、債権譲渡、他の差押えが関係する
こうした事情がある場合、滞納会社とだけ調整せず、証拠を用意して税務署へ申し出ます。相殺や債権譲渡の優先関係は複雑なため、弁護士へ確認してください。
滞納会社へ通常どおり支払わない
通知送達後、差押範囲で滞納会社への履行は禁止されます。通常口座、自社の別口座、代表者個人口座などへの支払依頼が来ても応じないでください。
誤って支払うと、その支払いを国へ対抗できず、再度の履行を求められるリスクがあります。
税務署の指示に沿って履行する
履行先、期限、金額、必要書類は通知書と徴収担当へ確認します。振込先を口頭連絡だけで変更された場合など、不審点があれば代表番号から再確認します。
履行後は通知書、照会記録、振込控え、会計処理の根拠を保存します。
対象外の取引まで一律停止しない
差押対象は通知書で特定された債権です。対象外の新規取引、別契約、別法人との取引まで自動的に同じ扱いになるとは限りません。
一方で、将来債権や継続取引が対象となる場合もあります。範囲が不明なら支払を急がず、税務署・弁護士へ確認します。
売掛金差押えとファクタリング・債権譲渡
すでに売掛金を譲渡している場合、差押えとの優先関係は契約日だけで決まりません。
債権譲渡の対抗要件と送達時点が問題になる
国税庁の62条関係通達では、債権譲渡登記と滞納処分による差押えが競合した場合、債権譲渡登記時と債権差押通知書が第三債務者へ送達された時の先後で優先関係を判定すると説明しています。
通知・承諾による対抗要件、登記、譲渡契約の有効性、対象債権の特定など、複数の論点があります。契約日が早いという理由だけで「譲渡が必ず優先」と判断しないでください。
二重に支払先を案内しない
ファクタリング会社と税務署の双方から支払指示がある場合、第三債務者はどちらかを独断で選ばず、通知書・譲渡通知・登記事項・到達日時を整理します。
ファクタリングと差押えの関係も参考にしつつ、個別の優先関係は弁護士へ確認してください。
差押え後の資金化を安易に進めない
差押対象となった債権を、通知後に新たに譲渡して差押えを免れようとしても、国へ対抗できない可能性があります。資金繰りが必要でも、対象債権と対象外債権を専門家と確認します。
差押えを避けるために平時から行うこと
税金の納期限と売掛金の入金予定を同じ資金繰り表へ入れ、納付不足が見えた時点で相談します。
納税資金を日常資金と分けて管理する
消費税、源泉所得税、法人税等の予定納付額を月次で見積もり、別口座・管理区分へ確保します。入金された消費税相当額をすべて運転資金として使うと、納税月に不足しやすくなります。
売掛金の回収遅延を早く把握する
入金遅れが納税資金不足の原因なら、売掛金年齢表、入金予定表、資金繰り表を連動させます。売掛金の回収方法も確認し、遅延直後から事実確認を始めます。
納付困難が分かった時点で相談する
国税庁は、国税を一時に納付することが困難な場合の相談を所轄税務署の徴収担当で受け付けています。期限直前・督促後まで待たず、理由、手元資金、入金予定、分割案を整理して相談します。
相談記録と納付実績を残す
相談日、担当部署、提出資料、合意した納付日、実際の納付を記録します。口頭で話しただけで完了とせず、必要な申請や書面を確認します。



納付が難しいと分かった日が相談の開始日です。売掛金の入金予定と毎日の現預金残高を持参できる形にしておきましょう。
売掛金差押えと国税徴収法に関するよくある質問
国税を滞納すると売掛金も差し押さえられますか?
はい。売掛金は金銭の給付を目的とする債権であり、国税徴収法62条に基づく債権差押えの対象になり得ます。対象は債権差押通知書で特定されます。
売掛金の差押えはいつ効力が生じますか?
債権差押通知書が、売掛代金を支払う第三債務者へ送達された時に効力が生じます。滞納会社への差押調書謄本の交付時ではありません。
取引先は滞納会社へ支払ってもよいですか?
通知送達後は、差押えの範囲で滞納会社への履行が禁止されます。支払っても国へ対抗できないため、通知書と税務署の指示を確認してください。
滞納額より売掛金が多い場合も全額差し押さえられますか?
国税徴収法63条では原則として債権全額を差し押さえ、一定要件で一部差押えとなる場合があります。一部の場合は通知書へ明記されるため、滞納額だけで範囲を判断しないでください。
将来発生する売掛金も差し押さえられますか?
差押え時に契約等による債権発生の基礎関係が存在し、内容が明確な将来債権は対象になり得ます。対象期間・契約・債権種類など、通知書の特定内容を税務署へ確認します。
納税の猶予を受ければ差押えは必ず解除されますか?
必ずではありません。猶予と差押解除は別の判断です。すでに差押えを受けた場合の解除申請手続もありますが、要件と適用可否を所轄税務署の徴収担当へ確認してください。
まとめ
国税滞納による売掛金差押えは、会社の入金を止めるだけでなく、取引先を第三債務者として手続きへ関与させます。
- 売掛金は国税徴収法62条の債権差押えの対象になり得る
- 効力は第三債務者への通知送達時に生じる
- 第三債務者は差押範囲で滞納会社へ支払えない
- 原則は債権全額の差押えで、一部なら通知へ明記される
- 既存の明確な契約関係に基づく将来売掛金も対象になり得る
- 会社は税務署への相談と資金繰り再計算を同時に進める
国税庁の62条関係通達、63条関係通達、納税に関する総合案内を確認し、通知を受けた場合は直ちに所轄税務署・専門家へ相談してください。

